初文楽!の話。どうして今まで観なかったんだろう。

ずっと多少気にしてはいたのです、文楽というものを。福岡市に住んでいれば、文楽を観る機会というのは確かに限られていると思います。

大阪には国立文楽劇場があるようですし、東京でも公演はありそうですね。地方ではどうなのかなあ。とはいえ九州には「清和文楽」というものがあり、「清和文楽館」もちゃんとあるのですが。

清和文楽館サイト

それも含めて今まで全くゼロではなかったはずの文楽を観る機会。それを今までなんとなく見過ごし続けていたのですが、この度やっと、公演に行って参りました。

どうしてもっと早く観なかったのか。

と思いました。
やっぱり。

 

文楽協会「平成三十年三月地方公演」で「桂川連理柵」を観る

 

 

今回やっと観に行った公演のチラシには「平成三十年三月地方公演」とあります。

演目は昼の部が「桂川連理柵」、夜の部が「曽根崎心中」。今回わたしは昼の部のみの鑑賞です。

「桂川連理柵(かつらがわれんりのしがらみ)」とは、公演のチラシによると、1761年に京都の桂川で、38歳の男性と14歳の少女の水死体が発見されたという実際の事件から創作された(本当の事件のほうは、心中ではなかったかもしれないそうですが)心中物の話で、同様のものが、歌舞伎、歌謡、などにもあるのだそうです。この浄瑠璃を題材にした落語の演目もあるとか。

落語「胴乱の幸助」

38歳の帯屋の主人長右衛門は隣家の14歳の娘お半と一夜のあやまちを犯し、お半は身ごもってしまいます。お半の父は長右衛門の恩人。そのお半の父から長右衛門を引取り育て、店の跡取りとしてくれたのが帯屋の隠居。さらに夫の醜聞を知ってなお、けなげであり続ける妻、お絹。済まない申し訳ないと苦悩するそんな時、さらに、商売上の深刻な難題にも見舞われて、死を心に決める長右衛門。一方、一途に長右衛門を慕い続けるお半も、密かな決意を・・・。

長右衛門の妻お絹、帯屋の隠居、隠居の後妻、その後妻の連れ子で長右衛門の弟儀兵衛、お半の店の丁稚長吉など、登場人物全員のキャラがしっかり立ってます。本筋以外の場面が逐一面白い!当公演チラシにも見どころとされていた儀兵衛と長吉のやりとりの場面はホントに“すごかった”です。爆笑。

今回上演されたのは「六角堂の段」「帯屋の段」「道行朧の桂川」の三場面でした。「六角堂の段」ではお絹が長右衛門の醜聞をかばうための算段を巡らし、「帯屋の段」では先程の儀兵衛と長吉の掛け合いが行われます。「道行朧の桂川」は物語の終幕、心中に至るシーンとなります。

メインストーリーに関しては、

長右衛門にツッコミどころありすぎ(笑)

観ながら、それいかんやろ、の連発でした。
ますますいかん過去のエピソードまで出てきます。どこまで困った奴なんだ、長右衛門。

そしてお半にはあまり感情移入できませんでした・・・なんとなく(笑)。いじらしい、と思う場面もありましたが基本的にちょっと苦手なタイプかもしれない。年端もいかない(この時代にしてもそうだったようです)少女の一途さはかなさが涙をしぼる・・・ものだったんだろうか。きっとそうだ。

 

“わかりやすさ”とサービス精神

 

 

さて今まで能は幾度か観てきましたが、文楽は初めての鑑賞でした。まず感じたのは、そのサービス精神です。

「東西東西」の掛け声から始まって、まず大夫、三味線の紹介があり、どうぞ今からご覧下さい、と観客とコミュニケーションを取ります。そんなところにエンターテインメント性というか、「お客様に提供するもの」という姿勢を感じました。これはそういう芸能なんだ、お客様を楽しませるためにやっているものなんだ、と思ったんです。

大夫は地の文から登場人物ひとりひとりのセリフまで、ひとりで演じ分けてらっしゃいます。これはすごい。ひとりで全部語っちゃうんだなあ。

今回公演の“サービス精神”を感じたのがGマークでの字幕でした。舞台の下手に縦長の大きな機械(プロジェクター)が立っていて、そこに大夫の語りがそのまま字幕となって出てきます。文語ではありますが読めば内容は分かります。

語りがしっかりわかるというのは助かるしおかげで大変楽しめたんだと思います。字幕はちらりと見れば読めるので、人形の演技を観る妨げにもなりませんでした。
こういう場所での字幕にはきっと賛否両論あるんだろうな、とは思いますが、今回わたしは、Gマークくんがいてくれて本当によかったと思っています。

一番最初に前説として短いお話があったのですが、そこでGマークの紹介がてら、「Gマークくん、ロビーで売っているパンフレットの値段はいくらですか」と尋ねられるとGマークくんは「500円です」と答えていました。こういう宣伝の仕方、うまいなあ。

わたしなどは最初からこういうところのパンフレットは2000円くらいするんだろうな、と売り場も見ずに思い込んでいたのですが、これを見て、え、そうなの、そんなにリーズナブルならちょっと買って帰ろうかな、と思ったし実際買って帰りましたから。そんな人他にもいたんじゃないかな。嫌味なく、さらっと告知、効いていました。ツワモノ。

そして折り込みには、もう、来年の公演の告知チラシが入っていました。日時も場所も演目も入っている。やるな。もっとも、来年までもスケジュールが決まっていてこそ出来ることではありますが、次回のスケジュールを立ててしまっていることも含め、次の観劇機会を逃させない、忘れさせない工夫、心憎いと感じました。印象付け、動機付けばっちり。すてき。
もちろん前売発売日はスマホに登録致しました。(と、ここまで書いて調べてみたのですが、この地方公演というのは演目と大まかな日程がパッケージになっているものを、主催者側が買い取る形式になっているのかな?とすると告知チラシを入れたのは、今回で言うと北九州芸術劇場さんか・・・。)

他の演目を観ていないのでまだ判断はできませんが、今回観た限りでは、お話自体も笑いあり切なさありのわかりやすさ。いろんなお話が観たくなります。
そして見た目の美しさ。楽しさ満点です。

 

もっと知りたくなりました

 

 

次回はもっと前の方の席を手に入れて、人形の表情や細かい演技を間近で観たいと思っています。きっとすごい迫力だろうな。

人形のすごい迫力。演じるって、表現するって、なんだろう。と考えさせられることしきりです。自分も演じることが多少はあるのでなおさらです。表現。は、どこから生まれるのか。伝えるもの、はどこから来るのか。どうやって生み出されるものなのか。

買ってきたパンフには今回の演目の解説や床本(台本ですね。これまるごと載ってるのすごいと思う)、文楽についての知識が少々載っているよう。今からじっくり読むとします。

知れば知るほどきっと楽しめると思うので、文楽関係の本も読んでみようかな。他にどんな話があるのかも、興味があります。
また楽しみが増えました。

 

 

Mel
人文探検家。日本とヨーロッパが主な守備範囲です。 福岡市在住。 作家、文筆家。小さなネット古書店主で映画監督のたまご。 「東雲ゆう」の名前で、「劇作スタジオアリドラーテ」を主宰。演出家、作家、役者として芝居作りもしています。

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