ヘンな日本美術史

 Photo by (c)Tomo.Yun
Photo by (c)Tomo.Yun

「日本建築集中講義」から転がってきましたのがこちら、山口画伯の「ヘンな日本美術史」
期待たがわずたいっへん楽しかったです。
まずはさらりと目次のご紹介。

・第一章 「日本の古い絵」 絵と絵師の幸せな関係
・第二章 「こけつまろびつの画聖誕生」 雪舟の冒険
・第三章 「絵の空間に入り込む」 洛中洛外図
・第四章 「日本のヘンな絵」 デッサンなんかクソくらえ
・第五章 「やがてかなしき明治画壇」 美術史なんかクソくらえ

個人的に面白かったのは第一章、二章、五章かな?
でも四章も捨てがたく・・・あれれ。

「日本建築特別講義」の本のご紹介の時も書いたと思いますが、今回もちゃんと読もうとするとなかなか大変でした。
とにかく、プロ絵師の方の視点なので、ついていくのが難しい。
まず、感覚、感性、目の付けどころが違う。ものすごく鋭敏な眼だし、感じ方も細やかで、そんな風に絵を観て感じたことありません、と恐れ入ってみたり、感心してみたり。また、ともかく「描いて」らっしゃる方の実感から来る発言もあって、描かない自分にはなかなか想像をつけにくい点もある。それを一生懸命想像して噛み砕こうとしてみたり、展覧会に行ってはここで読んだことを念頭に展示を観るようにしてみた(そのうちの一つが山口県立美術館で観た「大浮世絵」展ですが)せいか、二度目にこの本を読んだ時は、最初よりずっと腑に落ち、一段とああ面白い!と読み進むことが出来ました。

『表面にある白、浅いところにある白、少し深いところにある白・・・』
『少し見上げるようにして見てみると、光の入射角が変わって、途端に・・・』
『白描画で目の快楽に溺れる』(白描画、すごい!)
『厳格な構図の静謐な画面の下では、張り出そうとする力と奥へと吸い込む力が激しく・・・』
『先ずその線自体に感じ入る事ができる』
『美味しい!可愛い!格好いい!』
などのワードがわくわくさせて下さいます。
絵というのものに心から「シビレル」感覚を、初めて教わったような気がします。

また、「日本建築集中講義」でも触れられていましたしこの本の中でもところどころ、特に第五章でまとめられているのですが、明治期において突然「西洋美術」に遭遇した日本人、日本画壇が味わった「不幸」についての言及に感じるところがありました。この点についてはお気持ちがかなりおありとお見受けします。「日本的」なものが避けられる雰囲気を生んだ背景。
『こういった内発性の高い反応を残した人を美術史の真ん中に据えられなかった不幸・・・』。
そう、わたしたちは、よくよく考えてみなければならないでしょう。

実に刺激的で豊かな本です。
そしてオモシロくもあります。特に語り口はやっぱり絶妙です。
いつも座右に置いておきたい、と思わせられる本であります。

さて続きましてはこの本にも紹介してあった、日本画家「月岡芳年」について、ちょっと調べてみたいと思います。

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「ヘンな日本美術史」 山口晃
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Mel
人文探検家。日本とヨーロッパが主な守備範囲です。 福岡市在住。 作家、文筆家。小さなネット古書店主で映画監督のたまご。 「東雲ゆう」の名前で、「劇作スタジオアリドラーテ」を主宰。演出家、作家、役者として芝居作りもしています。

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