長州ファイブ・学研まんが「日本の伝記・長州ファイブ」と中公新書「明治の技術官僚」

「長州ファイブ」関連書の検索で引っ掛かってきたのが学研まんが「長州ファイブ」
そして、ずーっと「長州ファイブ」に興味だけは持っていたわたしが、書店で特集されていたのを見掛けてより読むべし読むべしと思い続け、今回やっと読んだ本が中公新書「明治の技術官僚」です。
映画、マンガに続けてこの二冊を読みました。
(映画、マンガについては前記事があります。)

「明治の技術官僚」の方は、副題が「近代日本をつくった長州五傑」。帯にも有名な長州ファイブの写真が載っていて、長州ファイブの関連書だと一目瞭然でした。

学研まんが「日本の伝記・長州ファイブ」

関連書検索で、ユキムラさんのコミック「長州ファイブ」に続き、さらにもう一冊長州ファイブ関係のマンガが出てるんだなー、と知りました。

ユキムラさんの本は読み終えたし、さて次の本を買いに行くかと、書店で該当書のある棚を検索したところ、「4階児童書」・・・ん?児童書?

棚まで行ってみると、そこは学習マンガのコーナーでした。自宅での検索ではそこまで気づかなかった。
変に感心しちゃいましたが、予想していてもよかったかもしれませんね。

さてこの本は、表紙帯にも明記されていますし制作が「萩・明治維新150年記念事業実行委員会」となっていますとおり、2018年の明治維新150年記念事業の一環として出版されたもののようです。
イベント関連で、こんなこと(「学研まんが」の出版)まで、出来るんだなあ。

学習まんがらしく比較的シンプルな画面とコマ割りですが、内容はけっこう濃くて本格的。
持っていた「子供向け」のイメージは越えていました。

当書が扱っているのは、映画やユキムラさんのコミックより、時間的に広い範囲となっています。
密航を志す前のエピソードとしてコミックなどでは簡単にセリフなどで触れられるのみだった、山尾、遠藤、井上馨らが洋式船の操縦に手を焼く場面も描かれています。

五人の帰国後についてはさらに詳しく、「第五部」を設けて、かなり後日までの彼らの仕事(主に工業関係について。よって山尾と井上勝の出番が多い)について扱っています。
最初に読んだ時は、あら、帰国後が長い、詳しい、と若干意外でした。

考えてみれば、「長州ファイブ」を「理解」するのなら、ここまでの範囲を述べるのが妥当でしょうし、一方「物語」とするなら、映画などのようなところで切って焦点を絞るのが効果的でしょう。
それぞれの作品の妙について、考えさせられたことでもありました。

さらに、行きの渡航が、上海から先は五人一緒じゃなかったという史実もこちらの学習まんがで知りました。このあとに読む中公新書にもそう書かれていましたから、こっちが本当なんだろうな。

でも確かに、行きの船でも五人一緒だったことにしないと絵にはならないでしょうし、ドラマも盛り込みにくいでしょう。
映画もマンガも、この辺のくだり、印象的です。

そのほか細かい部分で両者に相違がありましたが、多分学研まんがの方が、史実に忠実でしょう。
そういう「違い」を知るのも、ちょっぴり面白い。

「子どもむけ学習まんが」では終わらない内容になっているのが本書でした。
(もしかすると最近の子どもむけ学習まんがはどれもこれもレベルがかなり高いんだろうか。)

「長州ファイブ」について知りたいと思う時には、一読しておくとプラスになる本だろうと思います。

中公新書「明治の技術官僚」

さて次はいよいよ、当初からお目当てだった「明治の技術官僚」です。

読み始めてからふとした時に気づいたのですが、2018年発行と、なかなか新しい本でした。
なんとなく、こういう内容の本って初版は古いもの、というイメージがあったので、これまた意外でした(笑)。

2018年は「明治150年」とされ記念イベントも多かった年ですが、あとがきに寄ると、この本はそれを目指して著されたものではなく、単に完成が遅れてこの年までかかってしまった、のだそうです。
そこは先程の学習まんがとは違うのですね。

さて、帯の紹介文や写真、副題の「近代日本をつくった長州五傑」のとおり確かに「長州ファイブ」に焦点を当てた本ですが、では「長州ファイブ」の本、かと言うとそうも言い切れない。
でも、「主題である(タイトルにもなっている)“明治の技術官僚”を論じるために、必要な対象として長州ファイブを扱っている」のかというと、まあ確かにそうでもありそうですが、そればかりでもないと思いました。

「明治の技術官僚」と「長州ファイブ」のどちらに力点が置かれていたとも言えないな、という印象です。
多分前者が主眼なんだろうけど、後者、つまり「あの五人」そのものにもかなり焦点が当たっている。
そこ、分けて考えなくてもいいのかな、と今書きながら思い始めましたが、
読んでいる間はなんとなく、どっちかわからないというか、どっちでもあるな、とずっと思っていました。
人に紹介する時、何て言おう。

さて内容ですが、序章結章含めて全八章のうち、密航留学時代については第一章で扱うのみ。
記述は主に、五人の帰国後を取り扱っています。

さらに、テーマが「技術官僚」であることが示すとおり、「政治家」となった井上馨や伊藤博文よりも、他の三人、山尾、井上勝、遠藤が中心に扱われます。
この三人の歩みが「明治の技術官僚」の歩みそのものでもあったからです。

とはいえ他の二人もそれに無関係ではなく、伊藤も井上も「工部省」とも深く関わり、しばしば登場します。特に伊藤は、強く関係しています。

個性的な五人の帰国後を追うことで、明治期の政治、制度、そして、「政治家」、「技術官僚」が成立していった過程を浮き彫りにしている本です。
その過程を追うのが面白い。
また、“五人の個性的な生涯”、彼らの人間、彼ら“らしさ”を読むのも楽しかった。
皆それぞれ「やりたいこと」が明確で(それらは主に密航留学から持ち帰ったものたちですが)、それに向かって実に邁進している。そこが“面白い”ところなのでしょう。
遠藤は遠藤で彼“らしく”生きたようで、そういうのも、何か、いい。

主に当初前半の部分になると思うのですが、わたしが個人的に持っていた疑問について、同じような疑問を持ち、分析してくれている箇所が数カ所あって、嬉しく思いました。

例えば、「破約攘夷」を掲げていた長州藩がまさにその時期に五人の留学生を英国に送ったのが以前わたしはよくわからなかったのですが、その背景にはもしかするとこういう考えが、と分析している部分(34ページ)があって、ああそうか、と思ったり。

他にも矛盾に見えたり一貫していないように見える個々人の行動について、こんな思惑があったとかこんな考えに基づいたのではないかとか、紹介してくれていて、そう考えると、その人そのものの像がより立ち上がってくるというか、立体的に、見えるようになって内容がよりリアルに感じられ、このことで新しい理解の段階に入らせてもらえたと思います。楽しくなってきました。

この本は「面白かった」「わかりやすかった」「読んでよかった」というのが率直な感想ですが、
そう思うのも、以上のような部分があったからなんでしょうね。

ところでこの本の中には、幾度も政治家に「なれなかった」という表現が出てきます。
この時代のことである、と前提したうえでもなお疑問なのが「政治家って最終的に目指すべき価値なのか」というところですが、この当時明治新政府周辺に居た人たちを扱う上での限定的な表現なのかもしれません。
どうかな。

次に読むのは

ここからはひとりひとりの人物について、読書を進めていこうと思っています。
まずは井上勝
自分がちょっぴり鉄道ファン(かすめてる、くらいですが)だということも関連して、まずはお名前はかねがね、だったこの人関連の本を現在三冊、ピックアップしています。

前回の記事でも書きましたが改めて、映画→マンガ→学習まんが→「明治の技術官僚」と、徐々に扱う内容が順当に増えていき、理解にはとても役立ちました。
たまたまですが、いい順に出会えた、いい巡り合わせだったな、と感じています。

Mel
人文探検家。日本とヨーロッパが主な守備範囲です。 福岡市在住。 作家、文筆家。小さなネット古書店主で映画監督のたまご。 「東雲ゆう」の名前で、「劇作スタジオアリドラーテ」を主宰。演出家、作家、役者として芝居作りもしています。

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