鈴木春信展を観てきました

 

夏休みにかかったので出遅れたかな、と思いましたが、朝一だったせいなのか浮世絵だからか、子供さんはほぼ全くいませんでした。夏休みらしい混み具合でもなし、穏やかな人出でした。それなりに盛況ではありましたが、開館と同時に入ったからでしょう、ゆったり観ることができました。

鈴木春信
名前は知っていたし、各種告知に載っていた絵にも大変見覚えがあったのですが、浮世絵に関する本を持っているわりには積読にしているので、知識はそれほどありません。予習もせずに素の状態でしたが、大変楽しく過ごしました。
行ってよかった。
春信ファンになったようです。

 

知的に洒落た優美な線

 

 

作品を観ながらそんなに楽しかったのは、単純に絵柄が好みに合ったということなのでしょう。
全体的になんとはなしに品がある。
題材や構図、トータルの印象が洒落てて知的。
線が繊細でやわらかい。きれい。

この独特の柔らかさが、春信の大きな特徴のひとつだと思いました。見ていてとても心地よい。

知的、という印象を持ったのは、数字が巧妙に隠された暦や、古典等に題材を取った見立ての絵が多かったからかとも思います。

春信の時代、趣味人たちが、「大小」と呼ばれる、美しい絵の中に、探さなければわからない数字や文字を潜ませた“暦”を作らせることが大流行したそうで、その“暦”の展示が多くありました。解説に照らして絵の中をものすごく探すと、ようやくどうにか字が見つかる。教わらないとわからない。当時のお金持ちたちは、そんな数字を探し当てては、大喜びしたんでしょうねえ。その様が思われます。

同じような趣向に思えるのが「見立て」で、和歌や古典、中国の故事などを題材に、主題だけを変えて描かれたもの。例えば若い娘と白い象が描かれた絵は「見立て普賢菩薩」。すなわち普賢菩薩といえば白い象、つまりこの絵は、若い娘の絵ではあるが白い象がいるところを見ると実は普賢菩薩が主題なのだ・・・という、一種の教養が背景になっている絵解きのようなもので、これも鑑賞者は、絵を観て、ははあ、これは普賢菩薩ですねなどなどと言い合ったり感心したりして遊んでいたのでしょう。

(余談ながら、個人的には「見立て」は好きなほう、図像学にもとても興味のあるほうです。そして見立てといえば横溝正史の・・・。)

しかしそのような題材の取り方だけでなく、筆致そのもの、絵の画面そのものにもやはり知的な何かがある、と感じました。そこも心地よかったのかなあ。

この展覧会について、写真入りで解説しているページを見つけましたのでリンクしておきます。

錦絵誕生までの道程 鈴木春信の魅力【前編】

江戸の今を描く 鈴木春信の魅力【後編】

 

春信についてちょっとお勉強

 

 

ファンになったので今後、本など読んで春信についてもっと詳しくなる予定ではありますが、ここでちょっとだけ簡単に手元の(積読になってる)本を繰ってみました。

「知識ゼロからの浮世絵入門」稲垣進一さん著。

それによりますと、春信が活躍したのは、浮世絵の歴史からすると初期の終わりから中期ごろ。多色刷りである「錦絵」が誕生、発展した時期で、この本では春信を「錦絵の創始者といわれる」と紹介しています。

錦絵発展のために春信が果たした役割は、奥村政信のように自ら新技法を取り入れたようなことではなく、絵師として錦絵の魅力を存分に生かした絵を描いた点にある。(「知識ゼロからの浮世絵入門」より)

「大小」と呼ばれる暦を作らせることが流行し、流行の盛り上がりがより美しい絵を求め続け、浮世絵の多色刷りの発展を生み促す。そこにその錦絵の魅力、可能性を花開かせる才能、春信がいた。それらの才能がますます熱気を煽り、ひとつの文化(この場合「錦絵」)がみるみる爛熟していく。ダイナミックですねえ。

 

今気になる浮世絵師

 

 

そろそろ浮世絵に関する本の積読も解除しなくてはねえ、というわけでこれからいろいろ読み進め、知っていくわけなのですが、今の時点で気になっている浮世絵師といえば、やはり月岡芳年です。

島根県立石見美術館で平成28年末から開催された芳年展にも行ってきました。いい展覧会でした。図録がものすごく厚く、部屋で威容を誇っております・・・。(ちなみにこの美術館およびここを擁する「グラントワ」はとってもお気に入りの施設です。)

芳年が活躍したのは、春信よりはぐっとあと、幕末から明治にかけてになります。

芳年といえば「血みどろ絵」、おどろおどろしく血糊たっぷりの怖い絵、と言われていますが、好きになったきっかけは、山口県立美術館で開催された「大浮世絵展」で芳年の「芳流閣両雄動」を観たことです。
この作品は南総里見八犬伝の一場面を描いたものですが、観た時はその迫力に文字通り胸を打たれました。ほんとに打たれたような気がしたんです。

これは展示を直接観なければ感じなかった感動でした。そのあと本や画像でこの作品を観ても、あの時のような強い印象は受けませんから・・・。いいご縁をいただいたと思っています。実物ってやっぱりすごい。

とはいえどんな絵か、について、画像にリンクを貼っておきますね。

「芳流閣」
あと、気に入っている一枚が歌川国芳の「相馬の古内裏」です。
どんな絵かというとこちら(記事中をご参照ください)。この絵はけっこう有名ですね。
ドラマ「大川端探偵社」(このドラマ、好きです)でも背景に使われていました。

こんなものを観ていくと、絵の題材となっている話も、どれも読んでみたくなりますね。
わくわくするけど、時間がいくらあっても足りないなあ。

 

Mel
人文探検家。日本とヨーロッパが主な守備範囲です。 福岡市在住。 作家、文筆家。小さなネット古書店主で映画監督のたまご。 「東雲ゆう」の名前で、「劇作スタジオアリドラーテ」を主宰。演出家、作家、役者として芝居作りもしています。

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